兵庫県北部の但馬地方に位置する出石町（いずしちょう）は、風情ある街並みと豊かな歴史を持つ「小京都」として知られています。
その中でも特に有名なのが、江戸時代から続く「出石そば」です。
出石そばは、白磁の小皿に盛り付けられた小さな一皿を次々と重ねていくユニークなスタイルが特徴です。
今回は、出石そばがどのようにして誕生し、現在まで愛され続ける理由を紐解きます。
江戸時代中期に始まった出石そばの文化
出石そばの始まりは江戸時代中期に遡ります。
1706年、信州上田藩から出石藩に赴任した新しい藩主、仙石政明（せんごくまさあきら）によって広まりました。
そば愛好家だった政明は、上田のそば職人を連れてきて、彼らの技術を出石に根付かせました。
これが出石そばのルーツとされています。
その頃はまだ、現代のような小皿に分けたスタイルではなく、一人前を一皿に盛って提供されていたようです。
仙石政明がこだわった信州流そばの味
そばを愛した政明は、出石の地で信州そばの風味を再現しようとしました。
当時のそばは現代のように小麦粉でつなぐことがなく、そば粉100％で作られるのが一般的で、風味が強く、豊かな香りが特徴でした。
政明が招いた職人たちも信州の技術をそのまま持ち込み、出石そばの基盤を築きました。
この技術は今でも大切に守られており、出石で提供されるそばには、職人たちのこだわりと江戸時代から続く伝統が息づいています。
出石そばの特徴：白磁の小皿で少量ずつ
出石そばの象徴ともいえるのが、小皿に少量ずつ盛り付けられるスタイルです。
この方式が始まったのは幕末の頃とされ、そばを提供する屋台が限られたスペースを効率的に使うために考案されたと言われています。
出石焼と呼ばれる白磁（はくじ）の小皿は美しさと実用性を兼ね備えており、現在でも出石そばには欠かせない要素の一つです。
一人前の目安は15皿で、出石そばを提供する多くのお店で、この伝統的な小皿に盛り付けて提供されます。
小皿が重なっていく様子も出石そばの楽しみの一つであり、観光客が写真を撮る人気のシーンです。
また、15皿が一人前とされる理由は、出石そばの一皿が少量のため、複数枚を重ねて一人前に相当する満足感を得られるよう工夫されているからです。
出石焼の発展とそばの関わり
出石そばに欠かせない白磁の小皿「出石焼」は、江戸時代中期にその材料が出石で発見され、後に出石町での生産が盛んになりました。
特に明治以降、出石焼は高品質の陶磁器として人気を博し、現在の出石そばのスタイルを形作る大きな要因となりました。
出石を訪れた際には、地元の陶芸店で出石焼の歴史や製品を見るのもおすすめです。
出石そばの現在：観光と地域文化の魅力
現在、出石町には40軒以上のそば屋が軒を連ね、多くの観光客が出石そばを味わいに訪れています。
出石そばは単なる食事ではなく、観光と地域文化の魅力を味わう体験としても人気です。
江戸時代には仙石氏のみが楽しめた特別な食事でしたが、時代の移り変わりと共に地域の名物となり、一般の人々にも親しまれる存在になりました。
出石の歴史：有子山城から出石城への移転
出石城は当初、現在の出石城跡から南東に位置する有子山（ありこやま）に築かれた「有子山城（ありこやまじょう）」でした。
1574年、但馬（たじま）の守護大名・山名祐豊（やまなすけとよ）によって建設されましたが、1580年に豊臣秀吉の弟・秀長（ひでなが）によって落城しました。
その後、龍野（たつの）から小出吉政（こいでよしまさ）が移り、1604年には新たに出石城が築かれ、以降、出石藩の拠点として栄えました。
幕末の激動と桂小五郎（木戸孝允）との関わり
幕末の動乱期には、長州藩士の桂小五郎（後の木戸孝允（きどたかよし））が幕府からの追手を逃れ、出石に身を隠していたことが知られています。
この頃、そばを小皿に盛り付けるスタイルが定着し、桂もひょっとすると出石そばを楽しんでいたかもしれません。
この時代に生まれた小皿スタイルが、現代に至るまで出石そばの代名詞として親しまれ続けています。
出石のそば屋とそば文化の継承
出石町には、代々続く老舗のそば屋や、新しい店舗まで幅広く揃い、訪れる人々が本場の出石そばを楽しめる環境が整っています。
各店では、秘伝のつゆや薬味を用意しており、お店ごとの味の違いを楽しむことができます。
地元のそば屋で提供されるそばは、職人たちが受け継ぐ伝統の技術で作られており、現代でもその香りや食感は多くの人々を魅了しています。
出石そばで出会う、歴史と伝統の一皿
出石そばは、ただの一品料理ではありません。その独特な食べ方と、そこに込められた歴史的背景から、地域文化を味わえる特別な体験が提供されています。
出石のそば屋を訪れる際には、ただお腹を満たすだけでなく、その背後にある歴史や文化を知ることで、より深い魅力を感じることができるでしょう。
出石そばは、「食」としての楽しみだけでなく、歴史や文化を通じて日本の伝統に触れられる貴重な機会です。
出石は、そばや歴史的な城跡などの観光スポットも豊富で、訪れる人々に多くの発見を提供してくれます。
出石そばの小皿に盛り付けられた独特なスタイルは、仙石政明が愛したそば文化の遺産であり、出石の風景に馴染む風情ある一品です。
まとめ
出石そばは、江戸時代に信州から赴任した殿様・仙石政明のそば愛から生まれ、地域の伝統として根付いたものです。
小皿に少量ずつ盛りつける独特のスタイルは、殿様のこだわりがきっかけで、幕末の時代には屋台で提供するための工夫としても発展しました。
今では出石のそば屋でこの伝統的な食べ方を楽しむことができ、そばを味わいながら、地域の豊かな歴史や文化にも触れられます。
出石を訪れる際には、ぜひ小皿そばを通じてこの歴史に思いを馳せてみてください。
最後までご覧いただきありがとうございました。
