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六甲おろし vs 浜風:甲子園球場と『六甲おろし』の意外な関係

野球ファンにとって、甲子園球場は特別な場所です。
高校球児の熱い夢が交錯する春・夏の甲子園、プロ野球の熱戦が繰り広げられる阪神タイガースの本拠地。
その甲子園球場には、多くの人が知らない面白い秘密があります。

「六甲おろし」という言葉を聞いたことがありますか?
阪神タイガースが勝利すると、球場中にこの歌が響き渡ります。
でも、実際の試合中に解説者が言及するのは「浜風」。
この不思議な矛盾に、あなたは気づいたことがありますか?

この記事では、甲子園球場にまつわるこの謎に迫ります。
球場の歴史、地理、気候、そして音楽までもが織りなす、意外な物語。
野球をより深く楽しむための、新しい視点が見つかるかもしれません。
さあ、甲子園球場の知られざる一面を、一緒に探検してみましょう。

甲子園球場の不思議:「六甲おろし」と「浜風」の謎

野球が好きな人なら誰もが知っている甲子園球場。
高校野球の聖地として有名ですが、プロ野球チームの阪神タイガースのホームグラウンドでもあります。

まず、甲子園球場の位置について考えてみましょう。
球場がある西宮市は、兵庫県の南東部に位置しています。
近くには西宮港があり、海からそれほど遠くありません。
一方、有名な六甲山からはちょっと離れています。

ここで不思議なことがあります。
阪神タイガースが試合に勝つと、球場中に「六甲おろし」という歌が響き渡ります。
でも、実際の試合中、選手が打った球が大きく飛んだときなどに、アナウンサーは「浜風に乗った!」とか「浜風に戻された!」といった表現をよく使います。
「六甲おろし」と「浜風」、どっちが正しいの?と思いますよね。
この謎を解くために、まず甲子園球場の歴史を振り返ってみましょう。

歴史を紐解く:甲子園球場の誕生と名前の由来

昔々、今の甲子園球場がある場所には、武庫川(むこがわ)の支流である枝川(えだがわ)と申川(さるがわ)という川が流れていました。
でも、1912年から1926年の大正時代に、この辺りは埋め立てられて阪神電鉄の土地になりました。
当時、学生野球が大人気で、たくさんの観客を集めていました。
そこで阪神電鉄は、アメリカの有名な球場、ニューヨークヤンキースタジアムに負けないくらい大きな球場を作ろうと考えたんです。
工事は1924年(大正13年)3月に始まり、なんと同じ年の8月には完成しました。
当初、グラウンドの土は、神戸市内の熊内(くもち)町の黒土と淡路島の赤土をまぜたものが使われたということです。
今でも大きな建物を建てるのに何年もかかるのに、たった5ヶ月で完成したなんてすごいですよね。

球場の名前の由来も面白いです。
1924年の干支(かんし)が「甲子(きのえね)」だったので、「甲子園球場」と名付けられたんです。
干支って12年に1回まわってくるので、きっと「ここぞ!」というタイミングだったんでしょうね。

プロ野球と「六甲おろし」:阪神タイガースの応援歌

さて、プロ野球の話に戻りましょう。
日本でプロ野球が始まったのは1920年代後半です。
そして1935年(昭和10)、大阪タイガースというチームが結成されました。
これが今の阪神タイガースの元になるチームです。
翌1936年(昭和11)、このチームが甲子園球場をホームグラウンドとして使い始めました。
同じ年に、チームの歌も作られました。
これが後に「阪神タイガースの歌」として知られるようになります。
そしてこの歌の中に「六甲おろし」という言葉が出てくるんです。

風の正体:「六甲おろし」と「浜風」の違い

ここで疑問が生まれます。「六甲おろし」って一体何?
どんな風なの?
六甲山は神戸市の北側にある山地です。
秋から冬になると、北西から湿った季節風が吹いてきます。
この風が山にぶつかると、山の北側では雪をたくさん降らせます。
そして風は山を越えて、南側の街まで勢いよく吹き下ろしてくるんです。
これが「六甲おろし」と呼ばれる風です。

似たような風は他の地域にもあります。
例えば京都の「比叡(ひえい)おろし」や滋賀県の「伊吹(いぶき)おろし」も有名です。
これらの風は、山から吹き下ろしてくる局地的な風のことです。

六甲おろしは、実は日本酒作りにも関係があるんです。
昔は冷蔵庫もエアコンもなかったので、冬に吹く冷たい六甲おろしは、酒蔵の湿度管理に役立ちました。
灘の酒蔵では、六甲山地に向かって北側に窓を作り、この風を取り入れていたそうです。
でも、ここで一つ問題が。
六甲おろしが主に吹くのは冬です。
野球のシーズンは春から秋。
つまり、実際の野球の試合では六甲おろしはあまり関係ないんです。
甲子園球場で春や夏に行われる高校野球やプロ野球の試合で影響があるのは、「浜風」なんです。
これは外野のライト(右翼)からホームベースの方向に吹く風で、打球の飛距離に大きな影響を与えます。
じゃあ、なぜ阪神タイガースの歌に「六甲おろし」が出てくるの?これには面白い裏話があります。
この歌の作詞をしたのは、佐藤惣之助(さとうそうのすけ)という有名な詩人です。
「赤城(あかぎ)の子守唄」や「人生劇場」など、たくさんの名曲の歌詞を書いた人です。
でも、佐藤さんは神奈川県川崎市の出身。
つまり、阪神地域のことをあまりよく知らなかったんじゃないか?と言われています。
もしかしたら、佐藤さんは「六甲山」という名前を聞いて、「きっと野球の試合にも影響する有名な風なんだろう」と思って歌詞に入れたのかもしれません。
でも実際は、野球シーズンには六甲おろしはあまり吹かないんです。
こうして見てみると、阪神タイガースの歌と実際の野球の試合で起こることには、ちょっとしたズレがあることが分かりますね。
でも、そのズレが逆に面白いんです。

「六甲おろし」という言葉には、強くて冷たい風のイメージがあります。
それは、試合で活躍する選手たちの勢いを表すのにぴったりかもしれません。
だから、実際の風の向きや季節に関係なく、ファンの人たちは「六甲おろし」を歌って選手たちを応援しているんでしょう。
また、阪神タイガースの本拠地である甲子園球場は、もともと埋め立て地に作られました。
つまり、昔は海だった場所なんです。
だから「浜風」という言葉も、球場の歴史と深く結びついているんですね。

文化と歴史が交差する場所:甲子園球場の魅力

このように、一つの球場を通して、地理や歴史、気候、そして音楽までもが絡み合っているのが分かります。
野球というスポーツは、単にボールを打って走るだけじゃない。
その土地の文化や歴史とも深くつながっているんです。
甲子園球場に行くチャンスがあれば、ぜひこんなことを思い出してみてください。
目の前で繰り広げられる試合はもちろん楽しいけれど、その背景にある様々な物語を知ると、もっと野球が面白くなるはずです。
そして次に「六甲おろし」が聞こえてきたら、それが実際の風じゃなくても、ファンの人たちの熱い思いが込められた応援歌なんだって分かりますよね。
一方で、アナウンサーが「浜風」について話すのを聞いたら、それが本当に試合に影響を与える風なんだって理解できるでしょう。
野球の魅力は、グラウンドの中だけじゃない。それを取り巻く環境や歴史、そして人々の思いにもあるんです。
甲子園球場と「六甲おろし」の不思議な関係は、そんな野球の奥深さを教えてくれる、とてもいい例なんじゃないでしょうか。

まとめ

甲子園球場は、地理的には「浜風」の影響を受ける場所にあります。
しかし、「六甲おろし」という言葉が応援歌に使われているのは、その力強いイメージゆえかもしれません。
この「ズレ」は、むしろ野球という競技の魅力を増幅させているのではないでしょうか。
実際の風の動きと応援歌の歌詞が異なるという事実は、一見すると矛盾に思えます。
しかし、それこそが甲子園球場の独特の魅力なのです。
それは、事実と想像力が融合した場所。
そこでは、選手たちの汗と涙、ファンの熱い思い、そして地域の歴史と文化が一体となっているのです。
野球を観るとき、もちろん試合の展開や選手のプレーに注目するでしょう。
しかし、その舞台となる場所にも目を向けてみてください。
きっと、今までとは違った角度から野球を楽しめるはずです。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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